ルポ トランプ王国 −もう一つのアメリカを行く

最近読んだ本のもう一つは、「ルポ トランプ王国 −もう一つのアメリカを行く」。

 トランプ前大統領が選挙活動をしていた頃のアメリカ、特にラストベルトと呼ばれる地域でトランプがどのように受け入れられてきたかを取材をもとに明らかにしている本。朝日新聞記者である著者の違和感も挟みながら、当時のアメリカの「熱狂」を感じられるのが面白い。

私は、トランプが「ブルーカラーのための大統領」になるとは思えない。自分のホテルなどのために働いてきた業者との間にいくつもの訴訟を抱えてきており、とても庶民の暮らしを尊重する人物には見えない。一方のクリントン法科大学院に在学中、貧困問題や人種差別問題に取り組み、その後も子どもの権利のために働いた。今回の大統領選挙でも中間層の底上げを目指し、富裕層への増税など再分配政策を示した。口先だけでなく、実際に行動が伴っていた。(p.116)

 それでも、クリントン氏は「エリート」のイメージが強く結果はご存知の通り得票数は多かったが、選挙には負けた。それがなぜだったのか。そしてトランプ氏を支持する人の考え方はどうだったのか。この本自体は2016年の本なので今更と思うかもしれないが、トランプ氏は負けたがかなりの得票があり、この社会構造自体はアメリカに残っていると考えるのが自然だと思うので今読んでも価値があるホンダと思う。

(今見てみると、第2弾が出ているらしい。これもまた読んでみようと思う。

ルポ トランプ王国2: ラストベルト再訪 (岩波新書)
 

この本では他にも引用ながらいろいろな政治体制に対する考え方が書かれているのも興味深い。例えば、アメリカで社会主義が支持されない理由について。

ドイツの社会学者ヴェルナー・ゾンバルト1906年の著書で、アメリカの労働者たちが社会主義に傾倒するには裕福すぎる点を以下のように指摘した。

「次に述べることは間違いがない。アメリカ人の労働者は心地の良い環境で暮らしている。概して彼らは抑圧的なまでに劣悪な住環境に縁がない」

(中略)

「全ての社会主義の理想も、ローストビーフとアップルパイの前では失敗に終わるのである」(p.205)

アメリカだけでなく社会主義的とも言える思想は世界に広がりつつある。一方で中国のような政治体制もある。今後世界はどうなっていくのだろう。

民主主義は、時の権力者が反対勢力(党内のライバルや野党)の存在を認めることが大前提になるが、トランプはクリントン訴追の必要性を執拗に訴え続けた。(p.225)

当たり前かもしれないが、ハッとした部分でもあった。日本の民主主義は反対勢力の存在を認めているのだろうか。

最悪のシナリオは新たな戦争ではないだろうか。(中略)つい最近まで選挙戦でやっていたように、次は海外に仮想的を作り出して憎悪を結集させ、「アメリカ最優先」を掲げて開戦しないだろうか。(p.234)

 これはトランプ大統領が生まれたころ多くの人が感じていたことかもしれないが、実際にはトランプ氏は戦争はまったくしなかった。これは想定外のよいことだったかもしれない。

「かつての製造業のような給料払いのいい仕事がなくなった」と嘆く労働者と「必要な技能を持ち合わせた労働者が見つからない」と嘆く工場の経営者が、同じラストベルトにいて、同じ候補トランプを支持していた。(p.243)

 この指摘はとても興味深い。それぞれ違う方向を見ていて、それでいてその解決を期待してトランプ氏を支持する。この構造を見てしまったらトランプ氏を支持したからって解決できるとは思えないのに。

ともかく、なかなか知ることの出来ないアメリカを知るよい本だと思う。